自動車サークルメディア 管宏業 年に一度の大きいイベント、「トヨタテクノロジースペース」が先日、中国江蘇省の常熟で行われた。常熟が選ばれた理由は、ここに上海ガニなど美味しい物産があるのだけではなく、ある程度、ここが中国の揚子江南部において最も裕福な地域として、トヨタ社が中国における新エネルギー事業を加速させる原動力の地にもなりつつあるからだ。 もはや10年前、トヨタ社はすでに先駆者として最初に、海外にある新エネルギー車の研究開発の拠点を中国で設立した。この拠点で開発されたローカライズ化したハイブリッド車向けのパワートレインはハイブリッド車の価格を大幅に引き下げたことに寄与した。そのため、ダブルエンジンバージョンの卡羅拉(Corolla)と雷凌(Levin)がこれまで中国で最も売れているハイブリッド車となった。 その旨みを味わえたトヨタ社は足並みを止めることをしていない。トヨタ自動車中国投資公司董事長の上田達郎氏は「エコカーが普及して初めて、真に環境への負荷を低減することに寄与できる」と語る。トヨタの研究開発センターがけん引となって、エコカーの普及を加速させることはトヨタの電動化戦略の原点とした。 2017年、トヨタは2030年度までの、電気自動車の車種を普及させるロードマップを発表した。ロードマップでは、2030年度中、販売する新車のうち、HEVとPHEVが450万台を超え、EVとFCEVが100万台を超え、これらを含む電気自動車の販売台数が合計550万台を超える目標を設定している。意外なことに、2019年に、トヨタは上記目標を修正し、2030年度の目標を2025年度に前倒して実現するとした。途中で事業計画を修正することがトヨタとしてまれなケースではあるが、その裏に読まれるのは新エネルギー車を成長させる切迫感と自信だと思われる。 準備はなければ戦わず、計画をした上で動くことがすでにトヨタブランドのDNAに浸み込まれ、世の中に知られている。電気自動車への参入も同様だ。同業他社に比べて、トヨタは純電気自動車への参入がやや遅れを取れているが、今回も準備万全でスタートしたと見られる。 2019年度、トヨタは中国における販売台数が162万台に上り、前年同期比10%も増加し、中国自動車市場全体の成長率よりも18%多く、市場をリードしている。日中関係の改善に連れて、トヨタは中国で発展する自信をより一層に確立し、投入を拡大し、市場の深堀をしていく。 電気自動車はトヨタが中国におけるビジネス構図の中で、最重要の一環である。中国市場を以て牽引したからこそ、トヨタは電気化自動に向け、2大施策を確立した。 まずは、単なるものをつくるのみという理念を変え、新型ビジネスモデルを確立するまで斬新な運営体制を築き上げることだ。その次は、従来の自社内で完結したものづくりと一社だけで戦う伝統を変え、「共同成長」に方向を転換し、より多くのパートナーシップを作り上げることにスイッチを切り替えることだ。 過去の2年間、トヨタは中国における戦略的な布石とパートナーシップを徹底的に変貌させた。ハイブリッド車とプラグインハイブリッド車分野では、第一汽車、広州汽車と、純電気自動車領域では、寧徳時代、比亜迪等と、燃料電池車領域では、福田、金龍等と、共同研究開発領域では、第一汽車、東風汽車、北京汽車、広州汽車等とパートナーシップを作り、そのパートナーがほぼ中国自動車業界の半分までに及ぶ。 上田達郎氏によると、共通な理念をもつパートナーと共同に努力し、2025年まで、トヨタは中国市場に、純電気自動車を10車種も発表し、グローバルでのEV販売台数を100万台に達成し、中国市場がその大半を占める計画があるという。 さらにインパクトが与えられたのは、これが単なるスローガンとギミックではなく、トヨタがそのために全力をかけていることだ。トヨタ中国の関係筋によると、今年の2月、上田達郎氏とトヨタ中国総経理の前川智士氏が700名の現地駐在員を引率し、日本から中国に帰国した。周知のように、2月は、中国が新型コロナウィルスの感染拡大で最も厳しい状況にあり、数多くの外国人が避けようとした時期だった。なぜ危険なタイミングに中国に戻ったのかについて、上田達郎氏が「必ず現場に身を置かなければならない。死んでも中国で死ぬと死に物狂いのつもりでいた」と微笑みながら答えた。